先日のアセットアロケーションの記事でも触れましたが、私は現在「野村Webローン」を活用しています。本日時点で6,650万円借り入れており、今回は長期運用を前提とした活用事例をご紹介します。
野村Webローンの仕組みと概要
保有している株式、ETF、債券などを担保に現金を借り入れる、いわゆる証券担保ローンと呼ばれる仕組みです。野村證券の口座で保有している銘柄を担保として設定できます。なお、Webローンは野村證券ではなくグループ会社の野村信託銀行のサービスなので、野村信託銀行の口座開設が必要になります。それでは主な要素を確認していきましょう。
担保対象の銘柄
担保対象にできる主な銘柄は公開されいます。
https://www.nomura-trust.co.jp/hbank/pdf/tanpolist.pdf
日本の個別株、ETF、債券、米国の個別株、債券が記載されています。これらに加えて、資料に記載はないですが米国ETFも対象となるものがあります。実際に私はVTIとQQQを担保に入れており、債券ETFのTLTなども対象になるようです。
しかし、VTやBNDなどのメジャーなETFが対象外だったりと少々いびつな状態です。月に1回、担保対象の銘柄が増えたりと更新はあるのですが、その基準は非公開です。米国ETFを担保にしたい場合は事前に問い合わせて候補の銘柄が対象になるのか確認した方がよさそうです。
もう一つ注意点としては、NISA口座で保有しているポジションは担保の対象外となります。
担保価値
各担保対象の担保価値の確認や借入れのシミュレーションはこちらでできます。
それぞれの担保価値は対象銘柄の時価評価額に「掛目」の数字をかけた金額となり、株式50%、投資信託60%、ラップ口座60%、国債80%となります。記載はありませんが、私の活用実績としては米国ETFは50%、米国債、米国社債は60%で担保設定できています。
例えば、時価評価額100万円の株式を担保にした場合、50%の50万円が借入れの上限金額となります。
金利
年率1.5%です。これを聞くと「え?1.5%ならそれ以上で運用できれば借りた方が得じゃない?」と考える方も多いと思います。ご多聞に漏れず私もそう考えまして、実際に借り入れた資金を投資に回しています。
なお、利息の計算は日割りで行われ、半年に1回まとめて半年分の利息が元本に組み入れられます。
※金利は2024年9月から1.65%に変更されました
返済期限
なんと返済期限はありません。確かに貸し手側の立場で考えても、担保に入れている株式などは日々評価額が更新されるので、その評価額に応じた担保価値の範囲内であれば利子をもらいながら永遠に貸し出していてもリスクはなさそうです。
厳密には利息のみを返済する仕組みはないのですが、半年に1回利息が元本に組み入れられるタイミングで、半年分の利息と同額の元本返済をすることで事実上は利息のみを返済しているのと同じように運用できます。半年ごとの利息組み入れの1ヶ月前にメールでも通知が来ますので忘れることはありません。もちろん一括の返済はいつでも行うことができます。
担保割れリスク
担保対象の銘柄は日々の評価額が変わるので、もちろん時価評価額が下がれば担保価値も下がります。ではどこまで下がったら対応が必要なのか、そのラインは担保充足率70%です。
例えば、時価評価額100万円の株式を担保にする場合の借入金額の上限は50万円です。上限いっぱいの50万円を借りた状態で、株式の時価評価額が70万円になったとします。すると担保価値は35万円になり、借入金額50万円に対して担保充足率は70%となります。
これを下回ると追加で担保を増やすか、返済によって借入金額を下げることで担保充足率を70%以上に回復させる必要があります。
担保充足率は何%が安全か?
担保充足率は高いに越したことはないのですが、何%くらいであれば安全と言えるでしょうか?上記の通り、担保評価の上限いっぱいの50%を借り入れる場合、時価評価額が30%下がったら担保充足率のボーダーである70%に到達してしまいます。
銘柄によって値動きの大きさは異なりますが、例えば直近のコロナショックで全米株式のVTIが30%程度下落していることを鑑みると、長期で運用する場合は上限いっぱいの借入れはだいぶ攻めている状態と言えそうです。
では、時価評価額が半額の50%の下落まで耐えられるようにするには、どの程度の借入れにすればよいでしょうか?
追加の担保設定や元本返済が求められるボーダーが担保充足率70%なので、担保充足率が2倍の140%の状態であれば、時価評価額50%の下落まで耐えられる計算になります。例えば担保対象が株式で時価評価額が100万円だった場合の担保価値は50万円なので、
50÷1.4=35.7万円
この金額の借入であれば借入金額35万円に対して担保価値は50万円=担保充足率は140%となり、時価評価額が50%下落しても担保充足率は70%となります。
しかしこれで安心ラインかというと実は重要な要素が漏れています。為替です。時価評価額は円換算で計算されるため、ドル資産を担保にする場合は為替リスクがあります。つまり円高になると担保価値は下がるということです。
例えば、30%の株価下落と20%の円高が同時に訪れたらどうなるでしょうか?
この場合、円換算では44%の下落。つまり時価評価額は56%となるので、一気に半額の50%が見えてきました。イメージとして、本日時点のドル円157円から20%円高が進むとドル円は125円になるので、中長期で考えるとありえそうな数字に感じられますよね。
これらのことからも株式のみを担保として長期で借り入れる場合、安心ラインは担保対象銘柄の時価評価額の25〜30%程度になるでしょうか?100万円の担保に対して借入れが25〜30万円なのでレバレッジ率としては物足りない感もありますが、安全を買うのであれば1つの目安はこの辺りになりそうです。
長期運用には債券の方が向いている?
上記の通り、株式を担保にする場合は大きな価格変動を想定する必要がありますが、債券を担保にすると少し状況が変わります。担保として株式と比較した際の債券のメリットは下記です。
株式と比較して価格変動が少なく掛け目が大きいので、株式を担保にするよりも安定した運用でレバレッジ比率を上げられる可能性があります。
もちろん、米国の政策金利が下がらずに円高だけが進めば債券の評価額が上がらずに3つ目はの効果は期待できませんが、米国金利が下がっていないのに大きな円高に振れる、つまり日本側の要因のみで大きく円高に振れる確率は本日時点ではそこまで高くないように思えます。
また、債券の利金は長期的に金利が固定されているので複利効果が得られず、証券担保ローンの利息返済との差額が少なくなるリスクもあります。
例えば証券担保ローンの借入で調達した資金で利金5%の債券を購入したとします。5%の利金が得られる債券の手取りは20%程度の税金を引くと約4%です。ここから証券担保ローンの金利1.65%を返済した差額、つまり2.35%が実際のプラスになる訳ですが、金利が上がった場合は、このプラス分がどんどん圧迫されていきます。
株式運用であれば複利効果で金利上昇分を相殺、もしくは上回っていくこともできますが、債券運用の場合は得られる利金が一定のため、金利の上昇がリターンに直撃することになります。
担保を債券だけで固める場合は、運用は安定しますが日本の金利上昇がより大きなリスクファクターになりますね。
野村Webローンの活用事例
それでは、実際に私の活用事例をご紹介します。これまで記載した内容も踏まえまして、現在の利用状況は下記の通りです。
下記は各担保銘柄の担保価値の一覧です。
現在は6つの銘柄を担保として設定しており、米国ETF(VTI・QQQ)と米国債券4つを組み合わせています。私は長期で借入しっぱなし(むしろもっと借りていきたい)を前提としているので、担保価値自体も長期的には上がってくれた方が都合がよいです。その前提で安定運用の観点との兼ね合いで株式と債券を組み合わせた担保設定になっています。(調達した資金でも株式と債券の両方を購入しています)
担保に設定している銘柄の比重としては債券の方が多く全体の60%強です。本日時点では担保充足率が120%と少し低めになっていますが、近々余剰資金でVTIとQQQを買い増すこと、現在楽天証券で保有しているVTIとQQQを移管することで135%程度になる予定です。最終的には担保充足率を最低130%程度に保ちながら上限の1億円まで借入れたいと考えています。。
なお、私は資産形成期ではなく取り崩し期なので、あまりキャッシュフローを悪化させたくないという背景から、借入れ金額の8割は債権の買い増し、残り2割をインデックスの買い増しに充てていますが、下記のような使い方もありだと思います。
- 長期で保有するインデックス投資にレバレッジをかける
- 担保設定だけ完了しておいて暴落時の入金に使う
- 日々の安定収入がある方ですと、普段はある程度フルインベストメントに近い形で積み立てをしている方も多いかと思いますが、その場合、数年〜十数年に1回訪れる大きな暴落時に大きく追加入金することが難しいかもしれません。その際に安全の範囲内で借入れから入金を増やすことで、その後のリターンの最大化が期待できます。
以上、野村Webローンについて紹介しました。金利上昇や為替など考慮すべき点はありますが、大きな金額を柔軟な利用用途かつ迅速に調達できるので、現状の1.65%の利息であれば使い方しだいではどなたにとっても武器になる可能性はあるのではないでしょうか。